特別企画 知的財産権 Q&A No.4
会報FROM JJDA 2010年3月号より
<Q.質問>
「意図しないで共同開発となってしまった場合の権利関係」をどう考えておけばいいですか?」
制作会社でデザインを担当しています、取りかかってから直ぐ、そして完成まで上司からの指示の連続でした。今回は販売会社から私の会社へ途中変更が多かったようです。販売会社、私の上司、そして私の関係をどのように考えておけば良いのでしょうか。
<A.回答>
1. 出意匠登録を受ける権利は誰に帰属する?
一番問題になりそうな意匠について考えてみましょう。まず、ジュエリーのデザイン(意匠)を創作した人が、その意匠について意匠登録を受ける権利を有します。すなわち、意匠を創作した人がまずは意匠登録を受ける権利を取得するのです。
もっとも、会社等の従業員、役員等が会社等の業務としてデザインを行ったような場合には、就業規則や契約により、予め意匠登録を受ける権利を会社等に譲渡することも可能です。この場合には、意匠の創作をした人ではなく、会社等が意匠登録を受ける権利を取得することになります。
2. 出意匠登録を受ける権利が共有の場合
それでは、ある意匠を共同で開発する、創作するとはどのような行為でしょうか。意匠とは、「物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいいますから、この意匠の創作を複数の者が共同で行った場合には、意匠を受ける権利はそれらの者が共有することになります。
発注者からのデザインについての「指示」が一般的なもの、感覚的なものであるような場合、すなわち、「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」に関係しない場合等には、発注者が意匠を共同で創作したとは言えず、意匠登録を受ける権利はデザイナーが単独で有することになります。
これに対して、発注者からある程度具体的な形の指示とか大雑把なラフデザインを示されたときは、「具体的な形の指示」、「大雑把なラフデザイン」が、最終的な形状にどこまで反映されたのか、ということと、公知意匠と相違する特徴部分にどこまで反映されたのかによります。すなわち、これらの指示やラフデザインが、最終形状に反映され、そこが公知意匠と相違する特徴部分だと、共有になる場合が多いでしょう。他方、最終形状に反映されても、その部分が公知意匠とも共通・類似する箇所に過ぎず、それとは別のデザイナーが単独で創作した部分が特徴部分だと、共有にはならない可能性が大です。 もっとも、いずれにせよ意匠登録を受ける権利は、譲渡することが出来ますから(意匠法15条2項、特許法33条1項)、デザインの創作を共同で行ったかどうかに拘わらず、契約により意匠登録を受ける権利の一部を譲渡すると、デザイナーと発注者との共有ということになります。ですから、疑義があるときには、紛争を避けるために、予め契約によりいずれが権利を有するか、持分割合等を定めておくことも必要でしょう。なお、意匠登録を受ける権利の譲渡は出願しないと第三者に対抗できません(意匠法15条2項、特許法34条1項)。すなわち、持分が二重譲渡されると出願した譲受人が優先します(後述のとおり、共有の場合、デザイナーと譲受人は共同出願しなければなりません)。
3. 意匠登録を受ける権利が共有の場合の効果
意匠登録を受ける権利が共有の場合には、互いに相手方の同意がなければ自分の持分を譲渡することが出来ません(意匠法15条2項、特許法33条3項)。
それどころか、共有の場合には、他の共有者と共同でなければ意匠登録出願をすることも出来ません(特許法38条、意匠法15条1項)。もし、共有であるにも拘わらず、単独で出願してしまうと、特許庁の審査では共有かどうかわかりませんから意匠登録に至るかも知れませんが、利害関係人はその意匠登録を無効にするべく、意匠登録無効審判を請求することができます(意匠法48条1項1
意匠法は、「新しく」創作した意匠を創作者の権利として保護しています。ですから、折角創作したデザインであっても、公表した後は登録されませんから注意が必要です。商標法が標章の使用を保護するのに対して、意匠法は、美感の面から創作を把握し、これを保護しようとするものです。意匠についても、出願し、設定の登録を受けることにより意匠権が発生し、設定の登録の日から20年、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有できます。
4. 意匠権が共有の場合の効果
共有者による共同出願により無事、登録に至ると、共有者は意匠権を共有することになります。共有者は、単独でも、侵害品に対する差止訴訟は提訴可能ですし、損害賠償請求訴訟についても持分に応じた額について可能です。
しかし、意匠権が共有の場合、他の共有者の同意を得なければ持分を譲渡することができませんし、ライセンスすることも出来ません。他方、共有者は、原則として他の共有者の同意を得ないでその登録意匠(及びその類似する意匠)を単独で実施することができます(以上、意匠法36条、特許法73条1~3項)。 このように意匠権が共有の場合、同意が無ければ譲渡もライセンスも出来ず、原則、自己実施しかできませんので、事業実施能力如何により共有者間に大きな格差が生じますので注意が必要です。
以上